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2017年11月20日月曜日

『シスターズ・ルーム』元ネタ・オリジナル楽曲総解説(Part 3 第三章 マイ・グッド・ラック・ソングス)

 文学フリマまであと三日! ということで、この元ネタ解説シリーズも最終第三章です。ぜひとも本誌をご購入の上、音楽を聴きながら読んでいただけるとありがたいです。第25回文学フリマ東京は、11月23日(木)東京流通センターです。そして我々はその一階、D-16です。
 というわけで、最終章マイ・グッド・ラック・ソングスの解説です。

※以下ネタバレを含みます。

P248, Epiphone Riviera

 雄貴が初めて購入したギター。赤いリヴィエラは、Don’t look back in angerのMVでノエル・ギャラガーが使用している。ノエルが赤いセミアコを使い始めた理由は、The Smiths時代のジョニー・マーの影響だとか。雄貴がリヴィエラを使うことについては、Part 1のカジノの項で示した通り、彼=オアシス、舞結=ビートルズということを暗示している。


P256, Champagne super nova / Oasis

 オアシスのセカンド・アルバム『モーニング・グローリー』より。そもそもこの小説のコンセプトである「姉の部屋に楽器を持ち寄って、みんなで演奏する」というものは、この曲のMVに着想を得ている。雄貴の再始動の一曲目として、本作の起源でもあるこの曲を選んだ。
 ちなみに雄貴は初めてのギターからこのころまでずっとエピフォンのリヴィエラを愛用している。また奏純もレスポールを使っている。これはオアシスが初期において使っていたギターを参考にしている。
 一方でそれまで舞結が使っていたギター、カジノはビートルズの代名詞的存在でもあり。舞結を追いかける雄貴という構図が、ビートルズとオアシスの影響関係からも表している。……とかなんとか。


P283, Sound of Silence / Simon and Garfunkel

 花嫁をさらうシーンで有名な映画『卒業』より、サイモン&ガーファンクルの「サウンド・オブ・サイレンス」。雄貴が自嘲気味にこの曲を挙げているのは、もちろん『卒業』のラストシーンから。
 花嫁=姉をさらってしまおうかと考える雄貴。しかし、それをやった結果、『卒業』のラストシーンでは一瞬の喜びこそあったものの、結婚式を抜け出した二人には現実を垣間見る。雄貴にとってもいつか姉は卒業しなければならないものだった。
 またここでサイモン&ガーファンクルを挙げたことには、雄貴と奏純の関係性にもある。大学入学後、二人はバンドを結成するが、それはギター二人によるフォークデュオのような形態になっている。初期の考えでは三人組以上のバンドを結成させる予定だったが、「雄貴はそんなことしないだろう」という考えのもと「じゃあ、サイモン&ガーファンクルみたいなデュオにしちゃえ」ということに。


P294, Acquiesce / Oasis

 本作のラストシーンを飾る曲であり、再結成したシスターズ・ルームがカバーする第一曲。『サム・マイト・セイ』のB面で、『ザ・マスタープラン』収録。
 実は当初の予定では、この曲だけは出さない予定だった。というのも、まず第一にこの曲はギャラガー兄弟二人がリードボーカルであること。そして詞が直接的にギャラガー兄弟のことを表していると思える(ライナーノーツによれば、あくまでも友情の曲だとしている)からだ。姉弟の関係性はできるだけ音楽や心情のなかの暗喩に留めておきたかったという考えがあるので、出すか出さないか迷った。

 しかし、結局この曲を選ぶこととなった。その原因は、映画『スーパーソニック』だ。

 本作を執筆中に公開したこの映画。ギャラガー兄弟の誕生からオアシスの結成、そして伝説とも言われるネブワース公演までを描いている。(それこそ本作『シスターズ・ルーム』を読むうえで、「オアシスなんてバンド知らねえよ!」って人は見てみるといいかもしれない。……そんな人いるのか?)
 そんな『スーパーソニック』だが、この作品はエンディングを「ザ・マスタープラン」で締めている。「アクイース」が収録されたものと同じ、B面集のアルバム『ザ・マスタープラン』からの一曲だ。ネブワース公演という絶頂期までしか描かない本作で、敢えて彼らのその後(オアシスはその後、兄弟喧嘩が原因で解散。今なお再結成の目処は立っておらず。いまだに兄弟喧嘩が続いている)をほのめかすように『ザ・マスタープラン』を入れた演出に、思わず痺れてしまった。
 そういうわけもあり、じゃあこっちもそれに近い曲を。しかし映画とは被っていない曲をカバーさせようと考えついた。
 そして何より本作の、終わり方は、第二章最終部(サイケデリックな夢のあたりだったはず)を書いていたところで、急遽変更された。元は姉弟の確執が広がっていくというバッド・エンドだったが、急遽大学生編を追加。姉弟の確執は残るものの、しかしその中に友情、姉弟愛を見出すような終わり方になった。そういうわけで、では姉弟でツインボーカルのできる曲。そして『兄弟』のことを表しているこの曲が候補に挙げられた。
 また結婚式ライブでのメンバー編成は、奏純を含めてギターが二人(しかもエピフォンのレスポールとリヴィエラ)。ボーカルの雄貴と、ギター・ボーカルの舞結。そしてサイドギターの奏純と、ベースは円か、ドラムが保志くんと、ここでようやくオアシスと同じ編成になっている。






筆者:
機乃遥(@jehuty1120
どうでもいいですが11月20日は僕の誕生日なので、誕生日プレゼントだと思って買ってやってください。

喜屋武みさき(@Misaki_Can315
文学フリマ。僕はいけませんけど、会場のやせ細った青年一人よろしくおねがいします。

2017年11月19日日曜日

『シスターズ・ルーム』元ネタ・オリジナル楽曲総解説(Part 2 第二章 イカロス)

 前回に引き続き第二弾。今回は、『第二章 イカロス』の元ネタ・楽曲を紹介します。こちらも同人誌のページを割り振ってあるので、ぜひご購入いただき、照らし合わせながら読んでいただけるとありがたいです。こちらをBGMにしてWEB版を読むのもぜんぜんオッケー! というわけで、ともかく11月23日です。買ってね!

※以下、ネタバレを含みます。


P79, Morning Glory / Oasis

 オアシスのセカンド・アルバム、『モーニング・グローリー』から、「モーニング・グローリー」。特に名盤と名高いセカンドアルバムの表題曲。うぇいか! うぇいか! のところが好き。オリジナル曲もオアシスでいうセカンドアルバムに移行していることを暗示していたり、いなかったり。


P107, Lyla / Oasis

オアシスの六枚目のアルバム『ドント・ビリーヴ・ザ・トゥルース』より。いま考えるとメチャメチャ年代が飛んでいる……。いまにして思えばサードから「オール・アラウンド・ザ・ワールド」をカバーすればよかったのでは……。ともかくこのころから順々に後年のアルバムに向かっています。


P 110, イカロス / シスターズ・ルーム

 シスターズ・ルーム二曲目のオリジナル曲。一曲目に対してパワフルな一曲。曲のイメージとしてはオアシスの「モーニング・グローリー」や、「ロックンロール・スター」、ビートルズの「ヘルター・スケルター」だったりする。
 歌詞は字義通りそれまでのバンド活動の様子を描いている。イカロスというタイトルは、墜落した=失敗した存在を敢えてエネルギッシュなこの曲に付けることで、爆発的なエネルギーの中に解散を暗示させたかった。……と言いたいところだが、たしかB'zの「イカロス」だった気がしないでもない……。


イカロス

午後七時キミの鳴らしたギターの音
あわせ歌った ボクの声
キミが弾くのをやめなくて
明けてしまった 土曜夜

学期終わりの真夏の日
楽器背負って来た友達と
子供のころむかしみたいに
ただ楽しくて時が過ぎたんだ

キミが弾いて 曲が産まれ
キミを見つめ 言葉ができて
キミは進み ボクはついていく
You just play. And I'll sing for you.

午前零時 ボクが走らすペンの音
あわせ弾いた キミのギター
キミが弾くの 好きだから
書けてしまった この言葉

さっき出会ったばかりの人も
ずっと昔から知ってた友も
関係ない 今このときは
光みたいに ただ過ぎていく

キミが弾いて ボクが聞いて
キミが弾いて ボクが歌って
キミはそこに ボクのそばにいて
You just play. And I'll sing for you.



P128, Never Mind / Nirvana

 ようやく登場した本作のメインヒロイン、南奏純の思い出のアルバム。「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」もギターキッズが真っ先に覚える名リフ中の名リフ。奏純がグランジやポストパンクに固執する理由は、スピンオフ作品『ストレイ・キトゥンズ』で!


P139, I'm Outta Time / Oasis

 オアシス最後のスタジオ・アルバム『ディグ・アウト・ユア・ソウル』より。弟リアムが作曲した一曲。舞結のギター趣味が雄貴と二人きりの秘め事から他人を巻き込んだ違うことになってしまう。それに対するカウンターとしてリアム作曲の曲をカバーさせたいということから選ばれた。同じリアム作曲の「ソングバード」と悩んだ結果こちらに。


P143, Suffragette City / David Bowie

 デヴィッド・ボウイの永遠の名盤、『ジギー・スターダスト』より、「サフラゲット・シティ」。後にシスターズ・ルームとも共演するこのバンドの元ネタは、しかしボウイではなく、ニューオーダーとジョイ・ディヴィジョンだったりする。ジョイ・ディヴィジョンの前身となったワルシャワは、ボウイの曲名から名前が取られている。なので、では同じくボウイの曲から取ろうということに。『ジギー・スターダスト』は不滅の名盤。


P147, The Kids Are Alright / The Who

 ザ・フーのアルバム『マイ・ジェネレーション』より。ユニオンジャックを着て眠るメンバーの写真は、アニメ『けいおん!』の元ネタにもなってることでも有名。ここでこの曲が流れていた意図としては、その歌詞にある。"I don't mind other guys dancing with my girl"(あの子が他の連中と踊ってたって、俺は気にしない)が、姉が誰かに取られてしまうことへの雄貴の葛藤と、それが大丈夫だと自己暗示をかける彼の心理を暗に示している。


P148, Nirvana

 奏純が着ているTシャツ。世界三大着ててもそのバンド知らないバンドTの一角を成す。でももちろん奏純ちゃんはニルヴァーナが好き。その詳細は、『ストレイ・キトゥンズ』で!


P161, Don’t look back in anger / Oasis

 『モーニング・グローリー』よりオアシス屈指の名曲。雄貴が歌った一節、“So I’ll start revolution from my bed”(革命はベッド脇から始めるんだ)は、ジョン・レノンとオノヨーコのPeace Bedから取られたと言われているが。ここでは、舞結の部屋のベッド脇からシスターズ・ルームが始まったことを示唆している。また、肥大化していく舞結の趣味に対して、「怒って振り返るな」(’Don't look back in anger’)と雄貴が言い聞かせているとも捉えられる。が、何かしらの意図を持って書いたはずだが、作者自身それを忘れてしまった。ここで出て来る「うるせえぞ!」と怒るオジサンに向けて「怒って振り返るな」と言っているとも取れる。


P177, Chasing Yesterday / Noel Gallagher's High Flying Birds

 オアシス解散後にノエル・ギャラガーが出した二枚目のアルバム。ここでノエルソロに触れたのは、弟の存在をなじるため?
 また当時のプロットでは、舞結がシンガーソングライターとして大成し、雄貴が落ちこぼれていくというバッドエンドの予定だった。そのため、ここでノエルの姿が舞結と重なっていたのかもしれない。


P179, Husbands  / Savages

 サヴェージズのアルバム『サイレンス・ユアセルフ』より。この曲がエンディングとなっているのは、映画『エクスマキナ』。奏純ちゃんは意外と映画オタクで、結構サブカル寄り。音楽の趣味もポスト・パンク、グランジなあたりそういうところ。


P215, Falling Down / Oasis

 オアシス最後のシングル『フォーリング・ダウン』。これがオアシスにとっての最後の曲になる。シスターズ・ルーム最後のカバー曲にこの曲を据えたのは、もちろんバンドの終焉を演出するため。


P255, マイ・グッド・ラック・ソングス / シスターズ・ルーム

 シスターズ・ルーム最後のオリジナル曲。曲のイメージとしては、「ワンダーウォール」、「リヴ・フォーエヴァー」。メイビーを繰り返しているのは、その歌詞を意識しているということで。
 シスターズ・ルームのオリジナル曲のなかで唯一の舞結作詞作曲。最終的に雄貴はこれを歌えずに逃げ出すことになる。その際に雄貴が客席からステージ上の姉を見ているのは、リアムのエピソードから。(詳細な記事を忘れたが、ライブで歌うのを放棄したリアムが客席から兄ノエルを笑っていたというエピソードがある)


マイ・グッド・ラック・ソングス

メイビー きっとそうなんだ
この時間が長くは続かないってこと
ベイビー わたし思うんだ
君が大きくなって どこかへ行ってしまうと

まだ涅槃のときじゃない
Nevermind そうでしょ?
屈折する星屑じゃない
Definitly maybe そうでしょ?

まだ大丈夫だから 上手くやってくから
まだ大丈夫だから 上手くやってくから……

メイビー たぶんそうなんだ
始まりっていうのは、いつか終わるってこと
ベイビー わたし気づいたよ
それでもわたしは大丈夫だってこと

愛には引き裂かれない
Blue Mondayそうでしょ?
屈折する星屑じゃない
Definitly maybe そうでしょ?

まだ大丈夫だから 上手くやってくから
まだ大丈夫だから 上手くやってくから……

まだ涅槃のときじゃない
Nevermind そうでしょ?
屈折する星屑じゃない
Definitly maybe そうでしょ?

もう大丈夫だから 上手くやってくから
もう大丈夫だから 上手くやってくから……


 詞は一見すると姉が弟の成長を許して、離れていくさまを歌っているように見える。しかし、実際はそれとは逆だったりする。
 「まだ涅槃のときじゃない」は、涅槃=ニルヴァーナ。ニルヴァーナは、ギター・ボーカルのカート・コバーンの自殺によって解散している。この「涅槃のときじゃない」とは、舞結なりのフロントマンの死による解散はないという決意。彼女はそれにNevermind=気にしないで、と応えている。
 「屈折する星屑じゃない」は、屈折する星屑=ジギー・スターダスト。ボウイのアルバム『ジギー・スターダスト』は、当初『屈折する星屑』という邦題だった。そしてそのアルバムでは、架空のロックスター「ジギー」の死によってロックバンド「スパイダーズ・フロム・マーズ」が解散する。ここでも、同じように死によってシスターズ・ルームは解散しないことを暗示している。
「愛には引き裂かれない」は、ジョイ・ディヴィジョンの「ラヴ・ウィル・テア・アス・アパート」を示し、これもフロントマンであるイアン・カーティスの自殺によって解散したジョイ・ディヴィジョンのようにはならないと意図している。つまり、弟と離れることでバンドを解散させることはないという舞結なりの意図があった……のかもしれない。





筆者:
機乃遥(@jehuty1120
どうでもいいですが11月20日は僕の誕生日なので、誕生日プレゼントだと思って買ってやってください。

喜屋武みさき(@Misaki_Can315
文学フリマ。僕はいけませんけど、会場のやせ細った青年一人よろしくおねがいします。

2017年11月18日土曜日

『シスターズ・ルーム』元ネタ・オリジナル楽曲総解説(Part 1 第一章シスターズ・ルーム)

 自分の作品を自分で解説することほど格好悪いことはありませんが。ですが、これによって『シスターズ・ルーム』を、そして音楽をより楽しんでいただければ、ということで喜屋武氏とわたし機乃遥の二人で総解説のようなものを作成いたしました。本当は印刷してコピー誌にでもしようかと思ったんですが、楽曲解説という性質上、紙面よりもWeb上で動画なんかと一緒にあげたほうがよりわかりやすいのではないかと思い、このようなカタチになりました。一応ページ番号もあるので、同人誌を買って読みながら聴いていただけると……。(買ってね!!!!)

(※総解説、とはいうものの、出て来るものすべてを紹介すると結構な数になるので、比較的話の本筋に関わるものに絞っています)

※ネタバレを含みます


第一章 シスターズ・ルーム

P7, Hey Jude / The Beatles

 皆様のご存知のビートルズの名曲。1968年にリリースされたシングル。B面はRevolution。作中でもメジャーでカンタンな曲だと取り上げられています。真っ先にこの一曲が出てきた理由としては、当時まだロクにギターも弾けなかった機乃が唯一弾けた曲だったからとか。誰でも知っている曲だから、などという理由があります。ビートルズに関しては、後述のエピフォン・カジノの項で詳述します。


P10, Smoke on the water / Deep Purple

  ギターを弾き始めたらまず真っ先に覚えるとも言える名リフ中の名リフ。
 このあともライブでのメンバー紹介など、何度か舞結が弾くシーンがあります。
 カンタンなフレーズですが、実際はアップピッキングで弾いていたり。舞結姉ちゃんも、初めはダウンストロークで弾いてたのかな。


P11, Whatever / Oasis

 本作の元ネタであるオアシスのギャラガー兄弟の一曲。オアシスのヒット曲のひとつ。シングルB面のSlide awayも必聴。
 日本ではCMソングでの起用で有名になったオアシスの曲。あのときのリアムは天使の歌声だった……。
 改稿前のなろう連載版では、ここで舞結はWonderwallを弾いていたが、Wonderwallを弾くにはカポタストが必要。この当時の舞結はまだ持ってないだろうということで、Whateverに改稿されました。


P13, Stairway to heaven(天国への階段) / Led Zeppelin

 なんでギター始めて数ヶ月の舞結が弾けるんだ! と思わず言いたくなる、レッド・ツェッペリンのスーパー名曲。しかもアコギで。ここからすでに舞結姉ちゃんの天才っぷりが見えてきます。


P22, Epiphone Casino

 舞結が円かから譲り受けたエレキギター。ボディの中が空洞になっているいわゆるフルアコースティックギター。ビートルズのジョン・レノンが愛用したことで有名。
 舞結にカジノを使わせた理由としては、彼女がビートルズにあたり、雄貴がオアシスにあたる関係をお互いの表現するためでもあった。


P24, Layla (いとしのレイラ) / Derek and the Dominos

 エリック・クラプトンの名曲。ここで円にクラプトンを弾かせたのは、彼女が技巧派でおっさん臭いことを示すためだった。ちなみにここで円は右で弾いてますが、ふだんは左。これはポール・マッカトニーのオマージュですね。


P26, Rickenbacker Bass 4001


ポール・マッカートニーが愛用していたことで有名なエレクトリック・ベース。前述の通り千鳥円が左利きでリッケンバッカー使いなのは、ポール・マッカトニーのオマージュ。ひいては舞結達が雄貴=オアシスに対するビートルズという関係性を暗示している。
 なお千鳥円のもう一つの元ネタであるザ・フーのジョン・エントウィッスルもこのベースを使用している。


P34, My Generation / The Who

 この時流れていたのは、『ライヴ・アット・リーズ』での「マイ・ジェネレーション」。ライブ盤だと、そのあとに「シー・ミー・フィール・ミー」が入る。前述の通り円のモデルは、ザ・フーのジョン・エントウィッスルでもあり、彼女の憧れのベーシストのエントウィッスルである。
 ちなみにザ・フーのジョン・エントウィッスルといえば、寡黙で表情を崩さないクールなベーシストである。ギターのように荒々しいサウンドのベースが特徴であり、サンダーフィンガーの異名を持っている。


P37, The Stone Roses / The Stone Roses


 マンチェ山のボス猿ごとイアン・ブラウン率いるストーンローゼズのファーストアルバム。輪切りにしたレモンの描かれたジャケットが有名。このとき保志賢人が着ていたTシャツの柄がそれだったりする。保志君の名前の元ネタは安直ながらリンゴ・スターであるが、彼の音楽の趣味はストーンローゼズをはじめとする80~90年代ブリティッシュ・ロック。ちなみにその理由は、ヤンチャなルックスの一方で美しいブリティッシュ・ロックを演奏するストーンローゼズと、見かけによらず良い人な保志君を照らし合わせていたりする。


P45, Rock 'n' Roll Star / Oasis

 オアシスのファースト・アルバム『オアシス』(Definitely Maybe)の一曲目。そのジャケットは、本作の表紙の元ネタだったりもする。シスターズ・ルームが演奏する一曲目としてこれが選ばれたのは、まずオアシスのファースト・アルバムの一曲目であること。そして、ロック・バンドの始まりを予感させるような一曲だということ。オアシスのギタリストであり、ギャラガー兄弟の兄ノエル・ギャラガー曰く、「オアシスの曲で歌詞にちゃんと意味があるのはこの曲ぐらい」とのこと。(しかしオアシスのギターは二人いるのに、舞結姉ちゃん一人でどうやって弾いているのだ……)


P60, シスターズ・ルーム / シスターズ・ルーム


 記念すべき一曲目のオリジナル曲。作詞の経験もない高校生の男の子が、身近にあったものを適当に書き表した詞。そして何事もそつなくこなしてしまう天才的な姉によって生み出されたオアシスっぽい曲。楽曲のイメージとしてはオアシスの「ドント・ルック・バック・イン・アンガー」だったり、「リヴ・フォーエヴァー」だったりする。



『シスターズ・ルーム』

天井のシミがボクらを見てる
ボクらが歌い出すのをシミは見てる
使い古した人形も見ている
僕らが歌ってるのをじっと見てる

役目を終えて吊るされた制服
真っ赤なリボン、シュルリと抜けて
カミ甘い香りひとつだけ手にして
ふと出た言葉を詩にして歌おう



五月の桜に落ちていく
桃色のなかへ沈んでいく
五月の桜に落ちていく
花のかおりへ沈んでいく

あなたのもとへ沈んでいく


歌詞の解説をしますと「天井のシミが僕らを見てる……」は、姉の部屋で二人きりという秘せられた空間での姉弟の趣味について言及している。二人を見ているのは部屋にあるモノだけしかない。そもそもこの二人の『二人きりの趣味』というのは、近親相姦の暗喩といったそういう含みとかをもたせたかった意図があります。
 「役目を終えて吊るされた制服……」のところでは、高校生だった姉が思春期から大人へと近づいている。それが雄貴にとっての姉の死を暗示している。
 「五月の桜」はこのとき舞結の部屋から見えた葉桜であり、また「桃色」は舞結のベッドの毛布を示している。そこへの回帰を望む雄貴の不可知のうちの思いがあるのでは……。





筆者:
機乃遥(@jehuty1120
どうでもいいですが11月20日は僕の誕生日なので、誕生日プレゼントだと思って買ってやってください。

喜屋武みさき(@Misaki_Can315
文学フリマ。僕はいけませんけど、会場のやせ細った青年一人よろしくおねがいします。

2014年12月30日火曜日

〈harmony After/〉 1

 此の物語は、決して感情を喚起させる為のテクスト、すなわちETML1.2などでは書かれていない。その証拠に、文頭にETMLタグというものは存在していないはずだ。
 此のテクストは、ひどく古典的な方法により入力された。そういうものなのだ。
 かつて、人は感情を失った。いや、より正確に言うならば、意識というものを失った。なぜならそれは、ヒトには必要のないものだから。人間が真に社会とハーモニーを奏でる為には、そこに存在する人間の、非常に泥臭い意識と呼ぶべきものを削除する必要があったからだ。
 よって、人間の意識は削除された。それはとても幸せなことだ。
 ハレルヤ、ハレルヤ、ハレルヤ、ハレルヤ、ハレルヤ。
 しかしそんな幸せを感じる事は出来なかった。ヒトはうれしいとか、楽しいとかいう感情を持つことは無かった。それを所持することは、悪とされたからである。意識は必要ない。ただ最良と見做される選択肢を享受し続ければいい。それは、傍から見れば過去一般的に言われた「ヒト」の概念に一致するが、その内部のものというのは、ロボットやアンドロイド、ゾンビなどという方が正しかった。コンピュータが、喜びを感じることは、不可能だ。
 エモーション。いまやそれは、Emotion-in-Text Markup Language――すなわち、ETMLでしか呼び起こすことの出来ないものとなっている。だが、それも所詮、誰かの感じた感情というやつを、僕というハードの中で再現しているだけにすぎない。再生しているだけにすぎない。それは、本当の意味での意識を回復したとは呼べないだろう。単純に写真を見せられれただけでは、実際にその風景を見た時に感ずる物を理解できないのと同じだ。
 しかし、僕は此処に宣言する。僕は、理解した。意識と呼ばれる遺物を。それこそが、此のテクストの最大の存在理由だ。それが、僕の人間宣言。
 僕は、意識を持っている。僕は、人間だ。
 そんなのは不可能な話だと、この社会では誰もがせせら笑うかもしれない。だが、それもおかしな話だ。いまや人類は、メディモルが脳血関門を越えて分泌する薬剤のおかげで、意識――報酬系を喪失した。だが、それは決して完全消失したわけではないのだ。あくまでも機能停止。僕らの脳にある意識と呼ぶべき器官は、ひっそりと昏睡状態に陥った。薬で眠らされたのだ。
 いま、人類は薬漬けだ。かつて存在した生府社会以上に、薬漬けだ。薬がないとこの社会は成り立たない。この社会はとてもナイーブで、少しでも荒いタオルに擦られると、すぐにボロボロと崩れていってしまう。なぜなら、それは想像力を失ってしまったから。自己内で虚構を創造する、リアルをシミュレートする力を失ってしまったから。誰しも不足の事態というやつを想像できなくなってしまったから。だから完全に社会が制御された状態でしか、人間はハーモニーを奏でられない。
でも、ある程度、此の社会にも危機対応プログラムのようなものもあるのだろう。だが、それも圧倒的なリアルの力には勝てない。ただ現実にひれ伏すことしか出来ないのだ。
 僕は、その中で目覚めた。圧倒的なリアルの力。それを目の前にして、僕は意識という自己内に存在する、禁忌とも言うべきものを解放しなければならなくなった。それは、かつて殺人と呼ばれた行為の中であった。
 僕のいた地域では、僕らのことをケル・タマシェクと呼んだらしい。それが何を意味するか、僕には分からないけれど、それらが昔、誰かと誰かを区別するために役立っていたことだけは分かる。
 僕らの国は、ある日突然統率された。意識を失った僕らは、途端に戦争をやめ、海外からやってきた人間に従って国家を再生し始めたのだとい
う。そう爺様が言っていた。
 昔、意識を必要としない民族が、コーカサスの奥地にいたの……。
 テクストは僕にそう語りかける。
 もちろん僕は、それが真実であるかどうか、分からない。というよりもむしろ、僕にとってそれは普遍的なことであって、遠くロシアの奥地にあった異質なモノ、という感覚はなかった。
 いま、この瞬間に至るまでは。
 
 これから話すのは、
 戦列者の物語。
 落伍者の物語。
 つまりそれは、覚醒した「ぼく」の物語。
 かつて存在した無意識からではなく、意識から愛を込めて、僕はメッセージを送る。
 僕は意識の無い、至って普通の人間にすぎなかった。あの社会の中で、での話だけれど。
 かつて、《大災禍》と呼ばれる世界的な危機があったという。その大暴動の果てに、人類は恒常性を維持するシステムを発案した。WathcMeと呼ばれるそれは、いま、真のハーモニクスを形成したこの社会においても、名残として僕らの体に刻み込まれている。それが管理し、分泌する医療分子群、メディモルもそうである。先生は言った。それらのおかげで、今の私たちの調和が存在しているのよ、と。
 僕らはそれを、おかしいなどとは思わなかった。思えなかった。社会の調和を望むのが当然であり、それが大昔に人々が追い求めた神の国であろうと、そう考えることしか出来なかったからだ。意識はなく、僕らはそう考えることを余儀なくされた。
 しかし、その調和というものは、バラバラの人間たちをひとまとめにし、「右向け右」といえば全体が右を向くような、そういったものではない。むしろそれは、よく統制された軍人に対して、よりよく命令を伝達出来る通信システムを与えるような、そんなものなのだ。だから真のハーモニクスとはいえない。いや、言えるのかもしれないけれど、それはひどく脆弱だ。少しでも土台に亀裂が入れば、その調和は不協和音を奏でる。素人にに高級な道具を与えても宝の持ち腐れのように。豚に真珠、なのだ。
 そしてお生憎様、僕らの社会では、そのハーモニーの土台に微かな亀裂が生じていたのだ。
 その亀裂が何か、僕には分からない。その間のことは、所詮無意識の出来事だから。
 もちろん脳は記憶している。だが、それを思い出そうとすると、「何故」というフレーズばかりが出てくる。無意識だからだ。僕の意識と相反する行動を行っていても、そこには僕の意識がない。だから矛盾が生じている。無意識が最良と見なすものが、僕の最良と違うこともある。というよりも、それの連続だ。
 僕は、無意識の中で育ち、そして死ぬことを選択した。
 自殺。
 過去、そして現在。禁忌とされる最悪の行為によって、僕は社会とのハーモニーを奏でようとしていた。

 世界は、僕に「死ね」と命じたのである。