2015年10月29日木曜日

UKロックから見るMGSⅤ

 遅ればせながらMGSⅤ TPPをクリアした。そしてプレイ中、かねてより書きたかったMGSとUKロックとの関連性を書き出したいと思う。
 小島監督といえば、大のUKロック好きである。そういえば、MGS5の初期のトレイラーはBGMにマイク・オールドフィールドのNuclearが使われていた。他にも、ソリッド・スネークの本名が「デイビッド」で、ゼロの本名はデイヴィッド・オウ。これは、デヴィッド・ボウイがら来ている(いや、2001年のデヴィッド・ボーマンかな?)だとか、雷電はむかし若い頃のデヴィッド・ボウイに似ていると言われたことがあるとか。ゼロ少佐のコードネームになりかけた「トム」というのは、同じくボウイのヒット曲『スペース・オディティ(Space Oddity)』に登場するトム少佐(Major Tom)から来ているとか。ともかくMGSシリーズにおけるUKロックネタを挙げ始めるとキリがない。
 今回は、特にMGS5とデヴィッド・ボウイの関連性を踏まえ、この未完の物語を考えていきたいと思う。
 まず、今回のMGS5は、なにを隠そうボウイの楽曲『世界を売った男("The man who sold the man")』から始まる。そして、最終ミッションのタイトルも「世界を売った男の真実」とある。ここからしてまずMGSⅤがボウイに強い影響を受けていることが分かるだろう。他にも「国境なき軍隊(MSF)」に代わる新たな組織名「ダイアモンドドッグス」は、同じくボウイのアルバム『ダイアモンドの犬(Diamond Dogs)』から来ているに違いない。しかも『ダイアモンドの犬』はジョージ・オーウェルの小説『1984年』をモデルにしているが、MGS5の舞台も1984年である。
 ほかにも、イーライの存在。ここはもう分かっている人には、あからさますぎたと思う。
 イーライは、どうにもリキッドの幼少期らしい。液体人間とか服に書いているあたり、完全に狙っている。しかし同時、彼はさも「ジギー・スターダスト」であるかのような紹介をされている。それはホワイト・マンバ=イーライの回収ミッションの際、カズがブリーフィングにて「地球に落ちてきた星屑」(だったかな……? 自信がない。要確認)とイーライのことを形容している。これは、同じくボウイのヒット曲であり、名盤とも言われる『ジギー・スターダスト(The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars)』から来ているのだろう。
 ボウイは70年代、同時期に『ジギー・スターダスト』というアルバムと『ハンキードリー』というアルバムを出しているが、前者は特に架空のロックスター「ジギー・スターダスト」関連の楽曲を集めている。ジギーの物語をざくっと説明すると、

 異星からロックスター「ジギー・スターダスト」が「スパイダーズ・フロム・マーズ」というバックバンドを従え、残り寿命の少ない地球へと降り立つ。ジギーは地球人たちを熱狂させ、救済せんとするが、最後にはファンの子供に殺され、ロックンロールの自殺者となる……。

 というようなストーリーだ。

 主人公であるジギーは中性的で、いかにも宇宙人のような風貌をしている。顔は白塗りで、髪の毛は真っ赤だ。彼は、五年後に滅亡の決まった地球(Five years)に落ちてきて、ロックンロールで地球を救おうとし、最後には死んでしまう。そんな彼がイーライとどのような共通点があるかと言えば、少年兵を救ったことだ。イーライは少年兵たちを統率し、大人が管理していた場所から外へと出て行った(一種のアウターへヴンだろうか?)。南アの黒人少年兵達にとっては、白人のイーライはまさしくジギーのような宇宙人的存在に写ったに違いない。そして、まさしくジギーたるイーライは、天国の外へと子供たちを連れだしていく。
 しかし、MGSⅤでのジギー・スターダストはイーライ=リキッドであろうか?

 アッシュズ・トゥ・アッシュズ(Ashes to Ashes)という曲がある。これは、同じくボウイのアルバム『スケアリー・モンスターズ(SCARY MONSTERS』に収録されている曲だ。

 この曲は、ボウイの初期ヒット曲であるスペース・オディティを否定した曲として有名だ。Space Oddityは、宇宙に行ったトム少佐を歌った曲。前述のゼロのコードネーム「トム」はここから来ている。しかし、このアッシュズ・トゥ・アッシュズでは、トム少佐を否定している。曲の冒頭でトム少佐を薬物依存の狂った人間であると言っているのだ。宇宙に行ったのではなく、幻覚を見ていただけなのだ、と。
 かつてのヒット曲の否定。これは、ボウイが常に変わり続けていることを指し示している。灰は灰に、塵は塵に。彼は常に自分の創造したキャラクターを『殺し』、そして新たに『生み出して』きた。
 さて、アッシュズ・トゥ・アッシュズの話をしたのは、MGSⅤでも同じく灰を扱い、そして自らの過去を『殺す』シーンがあるからだ。
 それは、声帯虫に感染したマザーベーススタッフを殺害していくミッション「死してなお輝く」だ。ホラーゲームを彷彿とさせるかなりショッキングなミッションであったので、覚えている方も多いだろう。ミッション中、スネークは味方殺しとしてヒューイに罵られ、しかしそれでも感染した仲間を淡々と殺していく。そして、最後には血に染まった鬼のようなスネークが現れるのだ。スネークは焼かれた味方の灰を顔に塗り、そして仲間の灰をダイアモンドに変えるよう命じる。彼らを灰にするな、と命じるわけだ。
 ここで、過去に天国の外(アウターヘヴン)を創りだしたビッグボスを殺された、とは考えられないだろうか。かつてのビッグボスは死に、ここに鬼としての新たなビッグボスが誕生した。それは、さながら過去の自分を殺すことで、新たなキャラクターへと変貌するボウイのように。

 MGSⅤは、各所で言われている通り未完の作品だ。もしかしたら、今後この『鬼』となった新たなスネークの物語が続いたのかも知れない。

 そしてこうも考えられる。小島プロダクションが消え、ソシャゲの方向性へとなったコナミ。小島監督はコナミを出たとか、出てないとか、いろいろな憶測が出ているが、ある意味で彼も『MGS』というブランドを殺し、新たな物を創造せんとしているのでは……?

 深読みのし過ぎだと言われそうなので、ここまでにしておきます。