2015年1月19日月曜日

最も恐ろしいのは、社会に隷属する人間か。『劇場版PSYCHO-PASS サイコパス』

 昨日、サイコパスだけは見る気が起きないと言った私。まあ、二期があまりにも微妙だったので、期待できなかったからなのだが。その上、なにやらサイバーパンク好きなオッサンどもをターゲットに当ててたのに、劇場には腐女子ばっかだと聞いたので(現に私がパトレイバーを初日に見にいった時はそんな感じだった)、じゃあ批判するためにも見に行ってやろう。と、勢い任せに見てきた。
 で、見てきたのだが……。



 すまん、ふつうにおもしろかった。

 というか、昨日見たアップルシードより良かったかもしれない。映像の質はさておくが。


 ところで、私がサイコパス二期が楽しめなかった最大の理由は、求めていたものと違うものを突きつけられたからだ。聡明な視聴者諸兄もそうであったはずだ。一期を視聴し、二期が始まると聞いて何を期待した? 咬噛とギノさんのホモホモしい展開? 違う。六合塚と唐之杜のレズセックス? 気持ちは分かるが、違う。
 二期に何を求めていたかと言えば、それは後日談だ。咬噛が消え、常守が先輩になった公安のアフターストーリーのはずだ。それがなんだかよくわからん、ストーカーのマザコンひろしの話にすげ変わっている。そりゃ、楽しめなくて当然だった気がする。
 劇場版は、そういう意味で私の見たかった三点と、もう一つ興味深い点を押さえてくれている。その三つというのが、まず前述の後日談。そして、ビバップばりの格闘アクション。劇場版では、そこにサイボーグ要素まで加わって、これでもかというアクションを見せてくれた。三つ目が、SF特有のガジェットの見せ場だ。

 では、もう一つの興味深い点とは何か。それは、昨今の国内SFで流行の、いわゆる管理社会、管理都市ものの疑問点に立ち向かっていることだ。その疑問点が何かというと、
発展途上国で管理社会は成立するか、
 というものだ。
 管理社会というのを、私は現代の民主主義政府社会の先にあるものだと考えている。いや、元を正せばそのようなディストピア小説は、社会主義の現実批判に端を発する訳だが、しかし社会主義も資本主義社会へのカウンター的なところがあるから、まあよしとしよう。
 話が逸れたが、問題の「疑問点」というのは、発展途上国すなわち紛争当事国で管理社会は成立するかということだ。人間がシステムに飼い慣らされる社会というのは、その前段階が必要なはずだ。つまり、民衆が政府の下に位置する社会。その政府が、民衆をシステムによって管理するかどうかが、管理社会であるかどうかというところだろう。だが、そんな民主主義も政府社会もへったくれもない紛争国では、そのようなシステムが運営可能であろうか?
 私はこの疑問点について、伊藤計劃のハーモニーについて考える際、ぶち当たった。というのも、私が以前考えたハーモニーのアフターストーリー、『〈harmony After/〉』にて、「意識消失は、紛争当事国でも完全に発生しうるのか」という疑問の中で浮上した。世界各国の発展途上国すべてが、日本のようにWatchMeを導入している訳ではない。ならば、どこかで意識が存在する人間が現れるはず。という、疑問だ。
 劇場版サイコパスでは、アジアの紛争国にシビュラシステムを輸出するという形で、この疑問への解を導き出している。すなわち、システムが開発独裁を意図的に発生させることで、国家を管理社会が実現可能なレベルにまで発展させるということだ。そうして、社会が一定レベルまで成長したところで、システムは独裁に関わった者を一掃する。
 で、そんなことを平然とやってのけるシステムの手駒として、霜月のような存在が出てくる。空気を読め、という一言でシステムが発展途上の社会を取り込んでいく様子を容認している。一方で、やはりそれらに懐疑的なのが、咬噛や常守だ。咬噛は、第二の槙島になるかと言われたが、しかしそうはならなかった。なりかけていたが。
 物語は、シビュラが導入された件の紛争当事国で、シビュラにあらがう咬噛。そして、彼を追う常守という形で進んでいく。やがて咬噛を見つけた常守は、成り行きで咬噛の味方につく。そこでシビュラに従いながらも、圧倒的な武力を行使する政府軍が描かれる。
 とまあ、そんな「反政府弾圧怖い」という演出があるわけだが、しかし最後にそれらをも容易くぶっ殺していく日本警察こそが、一番恐ろしい。その対比というか、演出は、是非見てもらいたいところだ。


 というわけで、遅ればせながらサイコパスを見てきた。個人的に、アクションもりもりのSFガジェットもりだくさんで嬉しかった。ここまでおもしろいと、逆に二期って何だったんだと思えてくる。
 きっと私と同じく、二期がつまらなかったから、敬遠しているSF好きがいるはず。少なくとも、二期よりは格段におもしろいかったと私は感じた。






 とはいえ一つ文句だけを言わせてもらうとしたら、あんまり日本の声優さんに英語で演技させないほうがいいんじゃないかなぁ……というところだ。

2015年1月18日日曜日

サイボーグ萌え&巨大兵器萌え『アップルシード アルファ』

 今年はSFアニメが目白押し。アップルシードに始まり、伊藤計劃作品三つに、攻殻機動隊……(サイコパスはあんまり見る気がおきない)。そんなわけで一発目、アップルシードαを見てきた。
 本作は、アップルシード、エクスマキナなどの前日譚。ブリアレオスとデュナンがオリュンポスでESWAT隊員になる前の物語。つまり、他の作品を見てなくても安心、ということ。SFアニメの取っ掛かりとして、アクション満載の本作を見てみるのもいいかもしれない。
 本作の何よりものウリは、美麗なCGだろう。エクスマキナの時と比べて、かなりよくなっている。ざっくり言ってしまうとFFみたいなCGになっているわけだが。それにしても、日本もCGイケるじゃないか! と思えてしまう出来。
 で、そのような美麗なCGで描かれるのは、世界大戦によって荒廃した未来。そして、そこに生きるサイボーグたち。諏訪部レオス(勝手に命名)始め、玄田哲章ボイスで喋る憎めない悪役的な感じのサイボーグ。また、名塚佳織ボイスで喋る黒くてつやつやで、ケツのエロいサイボーグとか。
 しかしどちらかといえば、これらのメカニック、アメコミ映画で出てきそうな感じのデザインだ。まあ、アームズフォートみたいな巨大兵器が出てきて、それの排熱シーンがカッコ良かったからいいのだが。


総評
 一言で言ってしまえば、そこそこ。綺麗な映像でそれなりのSFアクションをやってみた程度の出来だと言える。可もなく、不可もなく。いや、カッコイイのだけれど。物語はありきたりなものと言える。アクションはカッコイイが、しかしエクスマキナの時のようなカッコよさはない(それはお前がジョン・ウー映画好きなだけだろ)
 面白かったが、あと一歩な感じ。それなりに良い出来だったからこそ、もう一声と言いたくなる。そういえば、4DX上映もあるから、そのことを考えているのやもしれない。






 ……あ、でも玄田哲章さんが凄い良い味出してた。

2015年1月10日土曜日

猫パンチは目玉を抉る。『シン・シティ 復讐の女神(Sin City: A Dame to Kill For)』

 本日、TNGパトレイバーと一緒に見てまいりました。
 実のところ、前作を見ていない私。しかしCMで流れる、あのぶっ飛んだアクションを見て「おうおう、俺が見てえのはこういう映画なんだよ!!」ってなわけで、映画館へ。
 一応、物語が始まる前にざっくりとですが前作の解説があるので、前作を見なくても大丈夫でした。


 こういう映画って一体何を評すりゃいいんだろう、という気分になる。何故かと言うと、視覚的に訴えかけるイメージというのを文章で伝えるのは困難極まりないからだ。いや、それは単に私の文章力の問題なのかもしれないのだが(とか言い始めると、愚痴だけで終わりそうなのでやめる)
 まず、この映画の一番の特徴は白黒がメインということだろう。私は3D版を見てないので、そのへんの映像効果については避けて通るとして。ともかく、この映画は何とも言えない浮遊感のような物を常にまとっている。漫画テイストな演出が多く、その上背景がCGらしいCGだったりするのだが、それがいい意味で安っぽい感じなのだ。そんなリアリティの無い感じが、コミックテイストの演出と合い、さらに白黒の画面ともマッチしている。そのおかげか、俳優はリアルなのに、それも含めて全てがコミックのような印象を持つ。何とも漫画よりの実写化、ということなのだろうか(原作も読んでないんでよくわからない)。そんな、実写なのにコミックのような、どこか浮遊感のある映像が一つの魅力。
 そして、そのような浮遊感のある映像で描かれるのは、シン・シティ(罪の街)。"Sin"とは、宗教上の罪、原罪のこと。まあ、クライム・シティよりシン・シティのがカッコイイ気はする。アウトローでハチャメチャな展開は、前述のふわふわと浮いたような、コミックのような演出と共に進んでいく。
 で、そんな映像は素晴らしい訳なのだが、肝心要の物語はどうなの? というと、これは三つのストーリーが描かれている。悪女に復讐する男と、街の有力議員にポーカーで挑む男、そして愛する男の為に復讐する女。
 正直、復讐というストーリーは大好きなんですが、好き故に、やはり挽歌2を超えるものはねえな……というふうに思ってしまう。映像は素晴らしい。だが、物語は言う程でもない。まあ、それよりもカッコイイアクション、映像でしょう。
 三つの物語の中で、たぶん一番多く出ているのが、ミッキー・ローク演じるマーヴ。まあ、とんでもない怪力野郎。猫パンチで八百長とかそんな騒ぎじゃない。殴り殺したあと、目ん玉抉り取ってゲヘゲヘ言ってるような奴。コート翻しながら、ショットガンを二丁ぶっ放すのは、本当に映える。
 そして、ジェシカ・アルバ。とりあえずお美しい。とにかくお美しい……途中までは。実は最後の最後、復讐を誓うと、なんかパンクロッカーみたいな格好になって現れるもんで、「なんじゃこりゃ……」ってなことに。しかもマーヴが「色っぽいぜ」とか言うもんだから、彼らのセンスは分からない。 
 とまあ、他にも賭け事にめっぽう強い男や、アジア系のサムライソード使いの女とか、濃ゆいキャラが沢山出てくる。

 ざっくり言ってしまうと、いわゆる「雰囲気映画」というやつだと思う。アウトローなクライム・アクションの空気を吸いたいならば、映画館へ。