2014年11月23日日曜日

事象の地平線の先にあるモノは? 『インターステラー(Interstellar)』

 ダークナイト、インセプションなどで知られる映画監督、クリストファー・ノーラン。彼の最新作である『インターステラ―』を見てきたので、そのレビュー。ネタバレ注意です。

 さて、本作は前々から目をつけていた訳ですが、ざっくばらんにそのストーリーを言うと、要するに「ハリウッド版宇宙戦艦ヤマト」という感じ。作物が育たなくなり、食料危機に陥った未来。このままでは人類は餓死。それどころか、大気中の酸素がなくなり人類は窒息死してしまう。それを回避するため、居住可能な惑星を探しにいく……というもの。
 宇宙飛行士を主人公とした映画というと、だいたい『2001年宇宙の旅』、そして最近では『ゼロ・グラビティ』が引き合いに出されます。しかし、本作のキモは、それら二作品とは明らかに違います。比べるポイントが、明らかに違うように思えます。
 というわけで、私が思ったこの作品のキーポイントはこの二つ。

人間の欲望、野心から生まれる嘘。

事象の地平線を超えるモノ。あるいは、超えた先にあるモノ。

 この二つです。
 まずは、前者ですが。正直このへんは「なかだるみ」と私が感じた箇所でもあります。
 順を追って説明すると、主人公のクーパー(マシュー・マコノヒー)は元NASA所属のパイロット。しかし今では一線を退き、農夫として息子と娘、父と共に暮らしていました。息子は農家を継ぐ予定で、一方娘のマーフィー(ジェシカ・チャステイン)は、宇宙に興味を抱く少女。そんな彼女の部屋で、ある日異変が起きる。ポルターガイスト現象や、重力の異常など。そしてそれらは誰かからのメッセージだと判明する。
 メッセージに従い、クーパーとマーフィーはある座標へ。そこにあったのは極秘裏に活動していたNASAだった。
 NASAは、人類の危機に対し、二つのプランを計画していた。プランAは、コロニーを建造して移民するというもの。しかし、その為には重力制御装置の開発が必須。重力に関する方程式を解く必要があった。一方のプランBは、突如発生したワームホールの先にある別銀河に人間の受精卵をまき散らすというもの。クーパーは、プランBの為にワームホール探査に行った先遣隊を救出。並びに居住可能な惑星の調査のため、宇宙船のパイロットに選ばれる。
 ……という感じなのですが。これらの大半は嘘です。
 何が嘘かというと、居住可能な惑星を見つけたという先遣隊のマン博士。そして、方程式を解くと言ったブランド教授。二人は欲望の為に嘘をついたのです。マン博士は、救援を求めて嘘の情報を地球に送り、更に手柄を自分の物にするためクーパーたちを騙します。そのくせ「俺は人類の為に戦ってるんだ!」みたいなことを言っちゃう矛盾っぷり。
 そしてもう一人、ブランド教授はというと、コロニー建造の為の方程式はとっくに解けていた。というよりも、解けないということが分かっていた。というのも、解くためには「事象の地平線(イベント・ホライゾン)」を観測する必要がある。ブラックホールを探査する必要があった為です。しかし、プランAの嘘をついたのは、「地球にいる人々を見捨てる」ということを言ってしまえば、クーパー達は宇宙へ行かなかっただろう、という理由から。
 つまり、どこまでも人の欲望や、存在することへの固執のようなものを描いています。物語の中盤はずっとこれ。
「あれは嘘だ
「うわあぁぁぁぁぁぁ!!」
 みたいなやりとりが連続します。


 で、超えると一番のキモ。事象の地平線を超えた先が出てきます。
 ブラックホールで重力ターンをした後、他の惑星を目指すのですが、その際にクーパーはブラックホールに飲み込まれます。そして、事象の地平線へと向かうわけです。
 事象の地平線と言えば、シュタインズ・ゲートでも出てきたアレです。光の速さを超え、過去へメールを送ってしまうアレ。そのイベント・ホライゾンを超えると、時間と空間が逆転します(これはよくある誤解らしいですが、クソ文系の私には詳細がわかりません)。つまり、時間を超越した存在になるということです。ただし、空間は移動できない。
 クーパーは、そうして『あらゆる時間におけるマーフィーの部屋』に存在することになります。
 そうです。マーフィーの部屋で起きていた奇怪な現象は、事象の地平線を超えた先で、クーパーが時空を超えてメッセージを送ろうとしていたのです。この、始めの部分がラストに繋がる演出は、かなり良く出来ていたと思います。そのために、中盤の人間関係がだるーく感じられてしまう。特に三時間を超える大長編なのでなおさら。


 で、冒頭で何故私が『2001年宇宙の旅』や、『ゼロ・グラビティ』と比較してはならないというのは、宇宙空間の描き方ではなく、この『インターステラ―』の一番のキモは「ブラックホールの描き方」にあると思うからです。
 まあ、序盤でヤマトや、時間の流れ関連でトップをねらえ!を思い出してしまう私でしたが。
 ともかく、本作の核を成すのは何よりもブラックホール。次元を超えるモノ。これでしょう。
 
 人間関係、愛というものの描き方では、インセプションの方が秀逸であったと思います。しかし、ブラックホールという物を主題に置き、ここまでの物語を完成させた事は、本当に見事。ノーランには、この調子で素晴らしいSF映画を撮って欲しいと、心底思う作品でした。

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